公開日：2025/06/14

35th Season

#35-2　GPSロガ(作ろう)

　M5StickC Plus用に制作したログストレージハットにGPSモジュール(NEO-6M)を組み合わせて、GPSロガを作って見たいと思います。

システム設計

　まずは、設計完了した回路図を示します。



　I2C EEPROM(24C256)周りの回路は、こちらで制作したログストレージハットを使います(下図)。



　残りの回路はジャンパ線×3本で、ログストレージハットのピンソケット(PS)からGPSモジュール(下図)へ接続するだけです。

U/I設計

　装置はGPS受信機としても使える様、M5StickC PlusのTFTディスプレイへ位置情報と日時を表示しようと思います(下図)。

• 緯度・経度は、ddd[NSEW]mm.mmmmm形式。
• 度(°)dddと、分(′)mm.mmmmmで表示。
• NSEW＝北緯／南緯／東経／西経。
• 高度は、標高[m]で表示する。
• 日時📆は、GPSモジュールから取得した値を表示する。
• 従って、衛星からの電波が受信できない状態では更新されない。
• 着想としては、衛星から受信した日時にM5StickC Plus内蔵RTCを同期させると、衛星電波時計というアプリケーションも可能だが、今回は不採用。
• タイムゾーンは時と分単位の指定が可能で、デフォルトは日本標準時(JST＝UTC＋9時間)。
• 時刻(HH:MM:SS)の前に表示される1文字は状態。
• 測位可能な状態では’A’、
• 衛星探索中の状態では’V’。

書き込み禁止スイッチ

　ログストレージハット基板上に設けた書き込み禁止(WP)スライドスイッチを使って、ログ記録の可／否を選択可能にしておきたいと思います。例えば、以下の様な用途を想定する物です。

• 出発地点でログを開始(WPスイッチOFF)。
• 途中、商業施設の内部や地下鉄など、GPSを受信できなくなった場合、手動で一時的にログを中断(WPスイッチON)。
• 再び経路を記録したくなった地点でログ再開(WPスイッチOFF)。
• 到着地点でログを停止(WPスイッチON)。
• 等。

　ログストレージの容量を超えて記録し続けると古いデータから順に上書きされる仕様なので、上例の様に手動で制御できる機構も必要だと考えました。

シングルタスク

　TFTディスプレイの描画処理やI2C EEPROMへの書き込み処理などで、GPSモジュールからのデータ受信を干渉しないよう、2つの仕事の一方はFreeRTOSのサブスレッドに任せる、等と言うカッコ良い仕様も考えました。ですが、GPSモジュールからは1秒毎にNMEA形式のテキストデータが送られてくるだけなので処理量は多くなく、シングルタスクで充分であろうと見込みました。
　仮に、1回や2回受信損ねたとしても、バッファに溜まっている内に追いつけるはずです。マルチタスクの面倒なプログラムにしなくても、充分ハンドリングできるでしょう。

　CPUの動作周波数を低下させて低消費電力化を実施する場合にも、デュアルコアCPUの1個しか使用しないシングルタスクの方が有利(対処容易)だと考えられます。

モバイルバッテリ(オプション)

　こちらの回路を参照していただくと解る通り、M5StickC Plusの内蔵バッテリ(120mAh)で、I2C EEPROMおよびGPSモジュールの電源も支える必要があります。それでも1時間くらいは持つかもしれませんが、帰って確認したらバッテリ不足で電源が切れていた、なんて締まりませんから、念のためモバイルバッテリ(下図等)で強化しておいた方が良いでしょう。



　上図のモバイルバッテリはUSB出力型(5V)なので、そのままM5StickC PlusのUSB端子と接続すれば、システム全体に電源を供給可能です。

　アプリケーションに要求される稼働時間次第では、CPUの動作クロック周波数を下げたりする必要があるかもしれません(下図、Arduino IDE)。



　CPUクロック周波数はパフォーマンスに影響する重要なパラメータなので、変更した場合、本当に処理速度が足りているか？の検証が必要です。その様な方法で対処するより先に、外部モバイルバッテリを接続して電源を増強する方が、余計な心配をする必要も無くお手軽です。

ログレコード仕様

　こちらの記事にて、データをレコードと言う単位で記録する仕様を策定しました。1レコード当たり16バイト、その内データ本体は12バイトです。
　今回のGPSロガでは、日付、時刻、緯度、経度、標高を記録したいと思います。これだけのデータ量を記録するのに1レコード(12バイト)では不足なので、以下の如く2レコードセットで1回分のログを記録する事にしました。

　　GPSロガのレコード仕様：

• ’GD’レコード：　日時データ
• 状態：
• <HDOP>×65,536＋<NSAT>×256＋<STAT>形式の整数データ。
• <HDOP>：　Horizontal Dilution of Precision
• 数値の小さい方が高精度。
• <NSAT>：　捉まえた衛星数。
• <STAT>：　状態。
• 衛星探索中＝’V’(測位不能)
• フィックス中＝’A’(測位可能)
• 日付：
• ddmmyy形式の10進数整数データ。
• 時刻：
• HHMMSS形式の10進数整数データ。
• ’GP’レコード：　測位データ
• 緯度：
• ddmm.mmmmm形式の10進数固定小数＝ddmmmmmmm。
• −90_00_00000（南緯)〜90_00_00000（北緯)。
• 経度：
• dddmm.mmmmm形式の10進数固定小数＝dddmmmmmmm。
• −180_00_00000（西経)〜180_00_00000（東経)。
• 標高：
• aaaa.a形式の10進数固定小数＝aaaaa。

　記録する数値データは全て、int32(32ビット整数型)で、ビッグエンディアンです。

ログ間隔(＝ログ容量)

　GPSモジュールからのデータ送信間隔は約1sなので、最短では1s間隔でのログ取得が可能です。一方、ログストレージとして使用するI2C EEPROMには容量の制限があるので、ログ間隔を短くするとログ容量が増大して、記録可能な時間が短くなります。
　移動速度を考慮に入れて見ましょう。ログ周期＝1分だと、徒歩でも約80m進めてしまいます。車で移動する場合、法定速度60[km/h]なら、1分で1kmも移動することになります。もう少し短い周期に設定したいですか？？

　　例）ログ容量

• 10s周期で位置情報を記録する。
• 1回当たりの記録量は、こちらで策定した2レコード。
• ログストレージとして使うI2C EEPROMを256Kビット品の24C256と仮定する。
• 最大2,048レコードの記録が可能。
• 記録可能な時間は、2,048レコード÷(2レコード÷10s)≒2.8h。
• 2.8hを超えて記録し続けると、古いログから順に上書きされるので注意。
• より長時間のログを取得したい場合は、
• ログ周期を長くするか、
• より大容量のI2C EEPROMを使う。
• 電源の持続時間も考えると、問題なしと見る。
• 電源を増強する等して、長時間のログを取得する場合は、対策が必要。

　例示した通り、ログを取得しようとする場合の移動手段なり、その後のログ利用方法なりで、適切なログ間隔は異なります。一意に決められるものではないので、以下の通り、定数として設定可能としておきます。

　　const　int　gps_sec_log_itvl=10;　　// eep: log interval [s]

　デフォルトでは、上コード例の通り10s間隔としてあります。
　M5StickC Plusの内蔵バッテリ容量などを勘案すると、充分な時間だと考えられますが、長時間給電可能な電源を確保してログを取得する用途では、EEPROMの容量を考慮の上、ログ間隔を設定する必要があるでしょう。

　　その他のヒント：

• 電波状況次第で、フィックスしていなかった時にログの記録を実行しないようにする。
• ログ容量を節約できるかもしれない。
• 電波を安定して捉えることができた場合、まったく節約できないことも在り得る。
• ログが記録されなかった期間、
• 電源が遮断されていたのか、
• 結線が外れていたのか、
• 通信状態が悪かったのか、
• 等の状況を全く知ることができない事は短所。
• 一定時間毎にログを取るのではなく、一定移動距離毎にログを取得する
• こちらは、狭い範囲をグルグルと歩き回った場合、一向に指定した移動距離を越えず、ログを取得できないケースもあり得る。
• 徒歩と新幹線など、大きく速度の異なる移動手段を組み合わせた場合には、課題が残る。

　プログラムの改修は皆様の発想(と必要性)にお任せ致します。


　以上でシステム全体の設計が終わったところです。今回は、ここで締めて、次回、完成させようと思います。