公開日：2025/06/07

35th Season

#35-1　ログストレージハット

　以前、I2C EEPROMモジュールをログストレージとして使用するプログラムを作りました(以下記事・図参照)。

　　「#34-4　EEPROMをログストレージとして使う」

　M5StickC Plusでも使用可能なプログラムとしてあるのですが、M5StickC Plusで使おうとすると、I2C EEPROMモジュールをデュポンケーブルで接続する事になります。
　接続するのは良いのですが、記録すべき何らかのデータを別なセンサモジュール(I2C通信のもの)から読み出そうと考えると、I2C信号線(SCL，SDA)を引き出す必要があります。I2C信号線はI2C EEPROMモジュールに接続してしまうため、2股に先割れしたデュポンケーブルでもない限り、2個のI2C通信モジュールを同時に接続するのは無理なのです。
　この使い勝手を向上しておきたいと思います。

ログストレージハットの設計

　M5StickC Plusには、「ハット👒」と呼ばれる、拡張I/Oポート(下図)に装着する拡張ユニットが存在します。

　今回は、M5StickC Plusの拡張I/Oポートに装着可能なハットとして、I2C EEPROM(24C256)を搭載した基板、「ログストレージハット」を製作したいと思います。
　I2C EEPROMモジュール上の24C256チップはICソケットで実装されているので、取り外しが可能です。ハット製作に当たってはI2C EEPROMモジュールをそのまま活用するのではなく、モジュール基板から24C256チップを取り外してハット基板に乗せ換えて使います。

目標仕様

　下図に示す3×7[cm]万能基板を使います。

　短辺のスルーホール10列に対してM5StickC Plusの拡張I/Oポートが8ピンなので、2列余して接続可能であり、ちょっとしたハット基板を作り込むのに絶好の部品です。

　以下にログストレージハットの目標仕様を示します。

　　目標仕様：

M5StickC Plusに装着可能なハットとして設計・製作する。
拡張I/Oポートを引き出せるピンソケットを備える。

他のI2C接続センサモジュールを接続可能。
3.3V電源に加えて、5V電源出力が必要な場合にも対応可能。
電源を外部の電池ボックスなどから給電できる。

I2C EEPROMチップは、より大容量な24C512等へ換装できるよう、ICソケット実装とする。
I2C EEPROMチップのI2Cスレーブアドレスや書き込み禁止端子を設定可能。

スライドスイッチA2～A0によってスレーブアドレスの変更、
スライドスイッチWPによって書き込み許可／禁止設定が可能。

I2C通信線は、G0＝SCL，G26＝SDAを割り当てる。
G36／G25端子は未使用。

ピンソケットから引き出して、自由に割り当てて使用可能とする。

配置配線

　I2C EEPROMチップ(24C256)をM5StickC Plusの拡張I/Oポートに接続するだけなので、回路図はごく単純で簡素です。PowerPointを使い、3×7[cm]万能基板での配置配線図を作図してみました。以下図および解説を参照してください。

pin	#	24C256	#	pin
A0	1	● 8DIP	8	VCC
A1	2		7	WP
A2	3		6	SCL
GND	4		5	SDA

24C256：　I2C EEPROMチップ

ICソケット実装。

PS：　ピンソケット

M5StickC Plusの拡張I/Oポートはハット基板の接続で埋まってしまうため、電源や信号線を引き出せるよう、2列設置。

SSW：　スライドスイッチ

I2Cスレーブアドレス(A2～A0)および書き込み許可(WP)信号の設定用。

100n：　パスコン(100nF)

セラミックコンデンサなど。

青色線：　裏面配線

信号線同士が交差しない様に配線したので、スズメッキ線などを使用可能。

橙色線：　表面配線

基本的には、被覆線での結線を推奨。
配線が交差する部分があるので、スズメッキ線を使う場合、スルーホール越しの短絡に注意。

緑色線：　オプション(結線不要)

結線する場合は被覆線を推奨。
A2～A0，WP端子は24C256チップ内部で高抵抗接地されている。
スライドスイッチ(SSW)で強制的にGNDへ落とさなくても良いため、結線不要。

　実装する部品は全て表面に配置します。ただし、配置配線図に記載の無い、拡張I/Oポートとの接続用ピンヘッダのみ、裏面実装です。次節の裏面写真でご確認ください。

ログストレージハットの工作

　配置配線図が完成したら後は、はんだごてを温めて工作して行くだけです。完成した手作りのハット基板を以下図に示します。

　実は上の写真、予め作図した配置配線図とは結線が一部異なっています。

　　うん、単純に結線を間違えました（１＾＾；）っ。

　A2～A0端子からスライドスイッチへのはんだ付けの際、間違えて1個づつ下にずらして、はんだ付けしてしまいました。各スライドスイッチへの結線(はんだ付け)が裏面だったので、勘違いしたのが原因です。

配置配線図は表面から見た図なので、

スライドスイッチの下から入ったスズメッキ線を

上側のスライドスイッチに結線している。

はんだ面は裏面なので、

スライドスイッチの上から入ったスズメッキ線を

下側のスライドスイッチに結線しなければならなかったのに、
上側のスライドスイッチに結線してしまったのが間違い。

　このせいでWP端子からスライドスイッチへの結線が、当初予定していたスライドスイッチとは反対側の端っこに移動してしまい、被覆線が表面から裏面へ回り込むことになってしまいました。

　まあ、最初からやり直しになるような大失敗ではなく、何とか収拾が付いたので、不幸中の幸いでした。

※配置配線図と、完成品の写真で、スライドスイッチの配置が異なっているのは、このためです。誤記ではありません。

被覆線の固定

　表面から裏面へ回り込ませた被覆線が動く事で、金属疲労を起こして断線するのを防ぐため、ABボンドで固めておきました。被覆線の内部よりも、はんだ付けした根元の部分が断線し易いです。

　一般的にどう呼称するのか知りませんが、筆者は「ABボンド」と呼んでいます。2液混合すると固まるタイプの接着剤です。

今回、ダイソーで購入して来たのだけど、大失敗。全然固まらない。
まず、昔使っていた感覚と違って、2液を混合した時、サラッとして水っぽく、粘りが少ない。
「5分で固まる」仕様らしいけど、1日経っても固まっていなかった。
最近のABボンドは、盛ってはダメで、薄く塗って使う物らしい。
断面が丸い被覆線を、平らな基板に固定したかったので、

ある程度接着剤を盛る必要があり、
用途に合っていなかった様だ。

まあ、ぎりぎりまで薄くしたところ、何とか固まってくれたので、良しとした。

　最近だと、「ジェル状瞬間接着剤」とかいう物が売っているので、そちらの方が使い易かったかも？と、思いました。

今回のお買い物

　今回のお買い物は以下の通りです。

ユニバーサル基板(3x7[cm]、両面スズメッキ)×5枚：255円(Amazon)
ICソケット8DIP×4個：22円(aitendo)
ABボンド：110円(ダイソー)

　万能基板はAmazonの中華ショップから購入、配送料無料でした。

　ICソケットは4年ほど前に、こちらの部品と一緒に買っておいたものです(下図)。

　ICソケットは「いつか使う事もあろう」と、先回りして買っておいたのだけど、結局4年も塩漬けにしていました。そう言えば、この時一緒に購入したスライドスイッチも、今回本格的に使うことができました。ちょっと先回りが過ぎるでしょうか？

帽子を被って実験

　M5StickC Plusに、製作したログストレージハットを装着したらハードウェアの準備完了です(下図)。

　シリアルモニタで通信しながら実験を進めるので、M5StickC PlusをUSBケーブルでPCと接続してください。M5StickC Plusへこちらのプログラム(eep_storage.ino)を書き込んで実験します。シリアルモニタで受け付けているコマンドについては、こちらを参照してください。

　では、実験に進みましょう。
　A2～A0スライドスイッチでスレーブアドレスを変更しながら【scan】コマンドを実行して、スライドスイッチが機能していることを確認しました。手元の24C256チップでは、A2～A0スライドスイッチの変更後、直ちに設定が有効となっていました(以下サンプルを参照)。

　　実験サンプル：【】内はシリアルモニタからの送信データ
　　【scan】
　　OK+ +0 +1 +2 +3 +4 +5 +6 +7 +8 +9 +a +b +c +d +e +f
　　00: 　　　　　　　　　　　　-- -- -- -- -- -- -- --
　　10: -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- --
　　20: -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- --
　　30: -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- --
　　40: -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- --
　　50: -- -- -- -- -- 55 -- -- -- -- -- -- -- 5d -- --
　　60: -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- --
　　70: -- -- -- -- -- -- -- --
　　OK: scan i2c slave address

　上に示したログは、A2～A0＝0x101＝5と設定した場合の応答です。I2Cバスに接続された24C256チップのスレーブアドレス(0x55と、シャドウ0x5d)が検出されました

　続いて、WPスライドスイッチを書き込み許可側に設定して、ログレコードを書き込んでみましょう。

　　【list,1800】
　　LOG: found 0 records
　　OK: list: eep_radr=0x1800, eep_ridx=0x6ab7

　　【wrec,WE,wr-enable】
　　OK: wrec

　　【list,1800】
　　LOG+ 0x1800: 0x6ab7,'WE',wr-enable\xff\xff\xff
　　LOG: found 1 records
　　OK: list: eep_radr=0x1810, eep_ridx=0x6ab8

　書き込んだログレコードが読み出せることを確認できました。お手元で実験する場合は【list】コマンド実行時、適切な空き領域のアドレスを指定してください。

　今度は、WPスライドスイッチを書き込み禁止側に設定して、書き込んでみましょう。

　　【wrec,WP,wr-protect】
　　ERR+ eep_radr=0x1810, eep_ridx=0x6ab8
　　ERR: wrec (-3)

　　【list,1800】
　　LOG+ 0x1800: 0x6ab7,'WE',wr-enable\xff\xff\xff
　　LOG: found 1 records
　　OK: list: eep_radr=0x1810, eep_ridx=0x6ab8

　新しいレコード’WP’を書き込んだ(【wrec】コマンド)のですが、エラーメッセージが返り、書き込みできなかったことが判ります。WPスライドスイッチ(書き込み禁止)も機能していることが確認できました。OKです。

プルアップ抵抗

　Arduino UNO等のWireクラスライブラリでは、ATmega328の内蔵プルアップ抵抗を使って、外部回路にプルアップ抵抗を実装しなくてもアクセスできるようになっています(こちらを参照)。しかし、今回、M5StickC PlusのWireクラスライブラリでは、外部回路にプルアップ抵抗の実装が必要であることが判明しました。
　プルアップ抵抗無しで実験していたところ、突然【scan】コマンドで検出できなくなったり等、どうも動きが怪しく、「もしや」と思ってプルアップ抵抗を追加したところ安定したのです。

　ただ、ログストレージハット上にプルアップ抵抗を実装する事は不採用としました。
　実は、市販されている数々のI2C通信モジュールには基板上にプルアップ抵抗が実装されている事が多いため、それらを接続すると、二重／三重にプルアップが利いてしまうからです。
　ログストレージハット単体で使用する時にプルアップ抵抗が必要な場合には、ピンソケット(PS)の3V3⇔SCLおよびSDA端子間に、適切な抵抗を挿入して対処してください。実験中の写真を改めてご確認いただくと、ピンソケットに抵抗が挿さっていることを確認できると思います。

　工作時の結線ミスとか、最後のプルアップ抵抗が必要だった件とか、いくつかの落とし穴をかわしつつ、強力なログストレージハットが完成しました。こちらの万歩計ログなんかは、だいぶスマートに実装できる様になったと思います。