公開日：2025/09/27

36th Season

#36-4　RTCユニット再設計

　以前、中華FPGAボードで設計した実時間時計RTC400ユニットですが、まだCmod A7ボード(FPGA)への移植が未完了でした。
　今回はその移植に際して、実用的で現実的な解へ落とし込んでみたいと思います。

旧RTC400ユニット

　旧RTC400ユニットを設計した時の記事をリンクしておきます。

　　「#22-9　RTCを設計する(プロローグ)」

　　「#22-10　RTCを設計する(エピローグ)」

　読んでいただくと解るのですが、無駄に、まじめに設計してしまった印象があります。何が無駄か、って？

FPGAなのですから、32kHz発振も、電源遮断も、バッテリバックアップもできません。
なのに、わざわざ32kHzクロックの外部入力を基本として、

内部システムクロック24MHzからの非整数比分周器による疑似32kHzクロック生成まで実施、
32kHzクロックに固執しています。

電源分離なんてできないFPGAなのに電源分離を意識した結果、

32kHzドメインと24MHzドメインを分離して異なるIPモジュールにしてみたり……。

　挙句の果てに、システムクロックを可変にしても、実時間を刻めるようにと導入したclk_mhz[7:0]信号が、非整数比分周器に適用できず、移植がとん挫していました。

非整数比分周器

　非整数比分周器の設計記事は、こちらを参照して見てください。

$a229_fracdiv.png$

　クロックの分周比は、24MHz：32,768Hzで間違いありません。このままでは、特に24MHz＝24,000,000Hzの方の数値が大き過ぎて扱い難いため、まず、最大公約数GCDを求めました。24MHzと32,768Hzの最大公約数は、512と判りました。

　　24MHz：32,768Hz＝46,875：64　(両辺GCD＝512で除した)

　24,000,000が46,875(16ビット)まで小さくなったこともさることながら、32,768の方も64まで小さくなったのはGoodでした。

分周比D＝46,875÷64＝732.421875。

分周比の整数部Di＝int (D)＝732と、
残りの剰余Dr＝27とに分離して、
誤差を伝搬させながら目標の分周比Dに近づけていく回路が

非整数比分周器でした。

　ここで、システムクロック24MHzを可変にしようとした時、まず、組み合わせ論理でGCDを求める事が困難なため、数値を小さくすることができず、演算ビット幅が増加して回路規模も増大するという結果に陥りました。これが移植を躊躇わせていた元凶です。

実時間時計RTC400Sユニット

　今回新規設計するのは旧RTC400ユニットに対して、RTC400Sユニットとなります。最後の「S」は、Synchronous clock editionと言う事で、「同期クロック版」となります。旧RTC400ユニットが非同期のclk32k(32kHzクロック)で日時を刻んだのに対して、RTC400Sユニットはシステムクロックclk(24MHz)だけで日時を刻みます。

　以下図にブロック図を示し、説明を続けます。

※薄黄色の箱はCPUからアクセス可能なI/Oレジスタです。

旧RTC400ユニットと比べて、だいぶスッキリした。

ただ、回路(RTL)としては、旧RTC400ユニットのRTLをほぼそのまま流用しており、回路規模としては同等である。

クロックがシステムクロック一本に縮退した事、
32kHzクロックを生成する非整数比分周器(clkgen)が無くなった事、
カウンタブロック(rcnt)内にシステムクロックからマイクロ秒カウンタ → ミリ秒カウンタ → 秒カウンタへと駆け上がるプリスケーラが追加になった事、

等が主な変更点。

rctl：　制御回路

rtcctlレジスタのESELビットやEAVLフラグ等、機能的に不要となったビット／フラグは搭載しない
カウンタレジスタへの読み／書きアクセスと、カウンタの更新タイミング次第では、アクセスしたデータが不整合を起こすことは、過去解説済み。
これを回避するため、SNAPビットやRTCWビット等の機構はそのまま残す。

rctl⇔rcnt間のハンドシェーク機構(FSM)も、そのまま残しておく。
ただし、非同期クロック間の転送は無いため、同期転送で決着する。
カウンタの整合性を担保するためのハンドシェーク。

時・分・秒の変化タイミングで割り込み要求RTCRを出力可能。

rcnt：　カウンタブロック

こちらのBCDカウンタおよびclk_mhz[7:0]設定値と同様な機構によって、システムクロックclkから実時間をカウントする。
カウンタは、システムリセットでは初期化されない。

従って、シミュレーションに於けるカウンタの初期値は不確定(16'hxxxx)である事に注意。
FPGAの「電源投入」とは、「回路を書き込んだ直後」の状態を指すため、全てのF/Fは0に初期化されており、Cmod A7ボードを使った実動作では初期値0x0000が読み出される。

システムクロックclkが供給される限り、日時を刻み続ける。

Moscoviumマイコンは、システムリセットではシステムクロックが停止しないので、リセット中もカウントし続ける。

　一本の同期クロックで動作するようになって、ブロック図の見た目は大きく変わっています。しかし本来、非同期クロック間で通信するためのハンドシェーク機構などはそのまま残って機能しているので、回路規模、使い方に至るまで、旧RTC400ユニットと同様です。

I/Oレジスタ表

　I/Oレジスタについては、ほぼ、旧RTC400ユニットと同じですので、こちらを参照してください。旧RTC400ユニットとの差分についてのみ、以下に特記します。

　　旧RTC400ユニットと、RTC400Sユニットの差分：

１）rtcctlレジスタのEAVLフラグとESELビットは存在しない。

常にEAVL＝0かつESEL＝0が読み出される。
ESELビットへの書き込みは無効。

２）rtcscpsレジスタのPSC[7:0]フィールドは、(PSC[7:0]÷250)[s]を表す。

0≦PSC[7:0]＜250であって、解像度は正確に4ms。

　それ以外は、日時の書き込み手順、読み出し手順を含めて旧RTC400ユニットと同じです。

デザイン

　時計アプリケーションへの応用を鑑みて、RTC400SユニットとSPI-TFT制御STFT61ユニットを搭載したMSOC115RT1608マイコンを作成しました。

　Cmod A7ボード等、XilinxのFPGAに書き込むのに必要な、Moscoviumマイコンの設計データ(Vivadoのプロジェクトファイル一式を含む)はGitHubで提供しています。以下バナーよりアクセスしてください。

　デザイン(回路)をCmod A7ボードに書き込む手順については、こちらをご確認ください。

コンパイル

　MSOC115RT1608マイコンのコンパイル(論理合成・配置配線)結果を以下に示します。

　　コンパイル結果：

msoc115rt1608.vh
コンパイル時間：　約7分(SYNTHESIS＋IMPLEMENTATION)

LUT数：　7,916個　(最大20,800個)
F/F数：　2,796個　(最大41,600個)
36KビットRAMマクロ数：　22個　(最大50個)

64Kバイト分のFONTJPユニットフォントROM用ROMマクロで16個使用。
16Kバイト分の命令ROM用RAMマクロで4個使用。
8Kバイト分のデータRAM用RAMマクロで2個使用。

乗算器マクロ数：　1個　(最大90個)

MULC16の乗算器で1個使用。

MMCMマクロ数：　1個　(最大5個)

12MHz → 24MHzクロック生成回路で1個使用。

タイミング解析(STA)：

【24MHzドメイン】
Setup Slack：　2.543ns　(MET)
Hold Slack：　0.047ns　(MET)

確認時のクリティカルパスは、命令レジスタから、アドレスバスを抜けて、割り込みコントローラのI/Oレジスタに到達するパス(真パス)。
タイミングはメットしており、問題なし。

　RTC400Sユニット単体では、284LUT、153FF程の回路規模でした。
　旧RTC400ユニットはCmod A7ボードでコンパイルしていないため比較できませんが、非整数比分周器以外の回路は、ほぼそのまま使っているため、回路規模は同等だと思われます。
　RTCは、秒カウンタから、年カウンタまで、全てBCDカウンタで、52ビットカウンタ(秒8、分8、時8、日8、月8、年12)です。その手前、秒未満のカウンタ(プリスケーラ)も、合わせて28ビットカウンタ(BCD8、μs10、ms10)なので、他のタイマユニット(SYSTIMユニットやTIM162ユニット等)と比べても、論理規模は少々大きく見えます(下表)。

タイマユニット	カウンタビット数	LUT数	F/F数	備考ビット数内訳
RTC400S	80	284	153	＝8＋8＋8＋8＋8＋12＋(8＋10＋10)
SYSTIM	124	262	253	＝32＋32＋32＋(8＋20)
TIM162	32	123	148	＝16＋(16)
TIMLED5	24	108	141	＝8＋(16)

　カウンタのビット数には、プリスケーラのビット数(丸カッコ内)も含んでいます。

　サポートが切れてツールが使用できなくなり、ごみ🚮と化した中華FPGAボードから、Cmod A7ボードへ乗り換えて随分と経ちましたが、漸く、移植したいと考えていた全ユニットの移植を完了しました。最後になったのは、システムクロック周波数fcpuが変化しても、設定信号clk_mhz[7:0]さえ追従していれば実時間を刻むことのできる実時間時計RTC400Sユニットでした。