公開日：2021/08/28

17th Season

#17-7　I2Cスレーブ通信

　前回、Moscovium＋STWSERユニットを使ってI2Cマスタ通信用のソフトウェアを作り、実機動作確認しました。今回はI2Cスレーブ通信を実機確認して行きます。

　前回に引き続き、使用するデザインはMCOC115TW0408です。以下リンクから必要なプロジェクトファイルをダウンロードして、お使いください。手順はこちらです。

　I/O制約ファイルは、MCOC_full.adcです。

マスタ通信(後だし)

　スレーブ通信に移る前に、後出しのマスタ通信で追加実験をしておきます。前回12ビットDA変換器モジュールMCP4725を使ったプログラム(sin_wave.asm)では、実はI2Cライトサイクル(マスタからスレーブへのデータ送信)しか実行していませんでした。
　ここでは加速度・ジャイロ・磁気センサMPU9250(AK8963)(下図)を使い、I2Cリードサイクル(スレーブからのデータ受信)のテストを実施しておきます。

　MPU9250(AK8963)のI2Cバスサイクル🚲は以下の通りとなります。

　　ライトサイクル：　S　[ADR，W]　[reg_addr]　[reg_data]　P
　　リードサイクル：　S　[ADR，W]　[reg_addr]　R　[ADR，R]　[[RCV]](N)　P

※I2Cバスサイクルの表記方法についてはこちらを参照してください。

　↑は、SMBusのバイトリード／ライトですね(下図)。

　こちらのSTWSERマスタドライバを使うためのI2Cフレームは以下となります。

　　I2Cフレーム：

ライトサイクル

0x4100＋(ADR<<1)：　S　[ADR，W]
0x4000＋reg_addr：　[reg_addr]
0x4000＋reg_data：　[reg_data]
0x0000：　P

リードサイクル

0x4100＋(ADR<<1)：　S　[ADR，W]
0x4000＋reg_addr：　[reg_addr]
0x4101＋(ADR<<1)：　R　[ADR，R]
0x8200：　[[RCV]](N)
0x0000：　P

　完成したプログラムを以下にリンクしておきます。

　　完成版プログラム：test_mpu9250.asm

　アセンブルしてFPGAボードに書き込むと、シリアルモニタから以下のコマンドを受け付けるようになっています。

awr1,<reg_addr_hex>,<data_hex>

磁気センサAK8963(スレーブアドレス＝0x0c)の内部レジスタアドレス<reg_addr_hex>へ、8ビットデータ<data_hex>を書き込みます。
MPU9250のMCM(Multi-Chip Module)となっているAK8963へアクセスするには、MPU9250のINT_PIN_CFGレジスタ(0x37)の第1ビットに1を設定する必要があります。

【mwr1,37,02】コマンドを実行すると、AK8963へアクセス可能となります。

ard1,<reg_addr_hex>

磁気センサAK8963(スレーブアドレス＝0x0c)の内部レジスタアドレス<reg_addr_hex>から、8ビットデータを読み出します。

mwr1,<reg_addr_hex>,<data_hex>

加速度・ジャイロセンサMPU9250(スレーブアドレス＝0x68)の内部レジスタアドレス<reg_addr_hex>へ、8ビットデータ<data_hex>を書き込みます。

mrd1,<reg_addr_hex>

加速度・ジャイロセンサMPU9250(スレーブアドレス＝0x68)の内部レジスタアドレス<reg_addr_hex>から、8ビットデータを読み出します。

who
help

　FPGAボードとMPU9250(AK8963)モジュール、FTDIを以下表の様に接続します。

FTDI	接続	FPGAボード	接続	MPU9250(AK8963)
VCC(ジャンパ：3.3V側)	×
GND	⇔	GND
TXD	→	R7(uart_rxd)
RXD	←	T7(uart_txd)
		3.3V	→	VCC
		GND	⇔	GND
		P2(stws_scl)	⇔	SCL
		R2(stws_sda)	⇔	SDA
			×	EDA
			×	ECL
			GND	AD0
			×	INT
			VCC	NCS
			GND	FSYNC

　以下図に実験中の様子を示します。

　　実験サンプル：【】内はシリアルモニタからの送信データ
　　【ard1,00】
　　ERR: could not communicate mpu9250(ak8963): 0002
　　　　……　AK8963にアクセスできませんでした。
　　　　　　　　→ 先にMPU9250の設定が必要(↓)。

　　【mwr1,37,02】
　　OK: wr1[0x37]=0x02
　　　　……　AK8963へ直接アクセスできるように設定しました。

　　【ard1,00】
　　OK: rd1[0x00]=0x48
　　　　……　今度は、AK8963のWIAレジスタ(0x00)からIDコード0x48が読み出せました

　　【mrd1,75】
　　OK: rd1[0x75]=0x71
　　　　……　MPU9250のWHO_AM_Iレジスタ(0x75)から、IDコード0x71が読み出せました

　MPU9250とAK8963のIDレジスタを読み出して、各データシートに記載された通りのIDコードが読み出せました。マスタドライバソフトウェアを使って、I2C機器からのリードアクセスを検証したかったので、これでOKです。一応、内部レジスタの読み／書きができるようにしてあるので、手動制御して各種センサ値を読み出すことも可能だと思います。

　次は本題のスレーブ通信に移ります。

スレーブドライバ

　I2Cのスレーブ動作は、常にI2Cバス信号線(SCL，SDA)を監視していて、STARTコンディション検出後最初のデータ(アドレスバイト)を受信すると、自分のアドレスと比較して、以下の動作となります。

一致すればアクノリッジ応答してマスタと通信する。
不一致の場合はノットアクノリッジ応答して、次のSTRATコンディションを待つ。

※ここの動作はSTWSERスレーブユニットが自動で判定して実行する。つまり、ハードウェア処理。

　STWSERスレーブユニットの初期設定としては、最低限、以下の設定が必要となります。

　　// STWSERスレーブユニットの初期設定
　　ldwi　r0,slave_addr　　// 自分のスレーブアドレス
　　ldwi　r7,stwsadr
　　stw　[r7],r0

※必要に応じて、スレーブアドレスマスクレジスタstwsmskも設定してください(オプション)。

　また、自分の意志でアクセスを開始／終了できるマスタ通信と異なり、スレーブ通信は外部マスタからの非同期なアクセス要求に応える形で通信が成立するので、割り込みを使って制御するのが順当です(↓)。

　　// STWSERスレーブユニットの割り込み設定
　　ldwi　r0,stws_srae　　// スレーブ受信割り込み(SRAR)を許可
　　ldwi　r7,stwsctl
　　stw　[r7],r0

　割り込みを受ける以上、適切なスタックポインタspを設定して、割り込みベクタivにISRアドレスを設定する事、また、CPUの割り込み許可ビットの設定が必要となります(↓)。

　　// Moscovium割り込み設定
　　ldc　sp,ramtop＋0x100　　// 各自適切なスタックポインタを設定の事
　　ldc　iv,lab_mcvm_wire_isr　　// スレーブドライバのISRアドレスラベル
　　seie　　// CPUの割り込み許可

　ivレジスタに設定したlab_mcvm_wire_isrは、これから説明するスレーブドライバの割り込みサービスルーチンISRアドレスです。もし、ご自身の割り込みを処理して、独自のISRアドレスをivレジスタに設定するなら、そのISR内で以下の様にSRAR要因ビットを確認して、mcvm_wire_isrにジャンプするようにしてください。

　　// 各自のISRを使う場合
　　　　：
　　　　：　各自の処理
　　　　：
　　//　最後にSRAR割り込み要因をチェック
　　ldwi　r7,intfct
　　ldw　r0,[r7]
　　ldwi　r7,intmsk
　　ldw　r1,[r7]
　　not　r1
　　and　r0,r1
　　andi　r0，intc_srar
　　beq　pcnt＋6
　　jmpr7　mcvm_wire_isr　　// mcvm_wire_isrからはrti命令で抜けるので、ここはjmp命令
　　rti

※汎用レジスタの退避／復帰コードは省略してあります。適切に処理するよう変更してください。

　以下、スレーブドライバの仕様です。

　　スレーブドライバ：

ヘッダファイル：mcvm_lib_wire_h.incl
スレーブドライバ：mcvm_lib_wire_s.incl

ヘッダファイルはアセンブラソースの先頭付近で読み込む(incl疑似命令)こと。
スレーブドライバは、アセンブラソースの末尾付近など、通常、処理の届かない場所で読み込む。

スレーブドライバは、スレーブ受信割り込み(SRAR)を使ってマスタとの通信を制御する。
スレーブドライバの割り込みサービスルーチン(ISR)はmcvm_wire_isr。

割り込みベクタivに設定するか、各自のISR内でSRARフラグを確認してジャンプ(jmp命令)する。
mcvm_wire_isr内では、Moscoviumの汎用レジスタバンク3を予約して使用する。
ユーザプログラムでの汎用レジスタバンク3使用は禁止。

ISR(mcvm_wire_isr)内では、I2C通信状態を確認して以下のイベントを発生する。

mcvm_wire_onstar：　STARTコンディションを検出した時。
mcvm_wire_onstop：　STOPコンディションを検出した時。
mcvm_wire_onadrb：　マスタから自分のアドレスが指定されて、アドレスバイトを受信した時。
mcvm_wire_onrecv：　マスタとの通信で、データを受信した時。

イベント

ユーザは、上に記した識別子をアドレスラベルとして宣言し、そこに各自の処理を記述する。
イベントからの復帰はrtn命令。
イベントにジャンプしてきた時、汎用レジスタr0には受信データレジスタstwsdatrの読み出し値が格納されている。

r0を他の用途で使用する前に、受信データを使った判定や処理などを済ませること。

イベント内では、汎用レジスタバンク3となっており、汎用レジスタの保存は不要。
イベント内は割り込み処理の一部なので、通常のISR内と同じ制約を受ける。

状態レジスタsrのIEビット＝0で割り込みが禁止されている。
すべてのCPUリソース(レジスタなど)を保存する必要がある(ただし、バンク3の汎用レジスタを除く)。
等。

アドレスラベルは宣言される必要があるので、処理する必要のないイベントも、アドレスラベルを宣言してrtn命令だけを記述しておくこと(↓)。

// 処理不要なイベントの処置
mcvm_wire_onstar:
mcvm_wire_onstop:
mcvm_wire_onadrb:
mcvm_wire_onrecv:
rtn

　次は、STWSERスレーブユニットの割り込みタイミングを解説して、イベントの発生タイミングとの対応を明確にします。

割り込みタイミング

　以下にSTWSERスレーブユニットの割り込み発生タイミングについて説明します。

　　STWSERスレーブユニットでの割り込みタイミング：

スレーブ送信可能割り込みSTAR(＝送信可能フラグSTAF＆割り込み許可ビットSTAE)

送信可能フラグSTAFは、送信データレジスタstwsdatsに書き込み可能な場合に1となります。
stwsdatsレジスタに送信データを書き込むと、STAF＝0となります。
その後しばらくしてデータの送信が始まると、stwsdatsレジスタから、内部の送信シフトレジスタへデータが転送されて、再びSTAF＝1に戻ります。
STAF＝1に戻ると、stwsdatsレジスタに次の送信データを書き込むことが出来ます。
この様に、I2Cバスサイクルとの間にずれがあるため、うまくI2Cバスサイクル内に割り込み発生タイミングを記載することが出来ません。
I2C通信に於ける制御の基本はスレーブ受信割り込みSRARになるはずですので、STAFフラグは送信データレジスタstwsdatsへの書き込みができるかどうか？のフラグとしての用途が大半だと思われます。

スレーブ受信割り込みSRAR(＝受信データ読み出し可能フラグSRAF＆割り込み許可ビットSRAE)

S<SRAR1>　[ADR，R]<SRAR2>(A)　[[RCV1]](A)　[[RCV2]](N)　P<SRAR3>

STARTコンディションを検出した時点で<SRAR1>割り込みがかかります。

受信データレジスタstwsdatrからの読み出しデータ中の0x0400(＝stws_ssta)ビットがセットされます。この時の下位8ビットデータは無効です。
最初のSTARTコンディションを捉まえるというより、反復STARTコンディションを検出した時点で、それまでの送受信サイクルに関する処理をまとめて実行するのに有効な割り込みです。

アドレスバイト[ADR，R]を受信した時点で<SRAR2>割り込みがかかります。

受信データレジスタstwsdatrからの読み出しデータ中の0x0200(＝stws_sadr)ビットがセットされます。この時の下位8ビットデータを読み出すことで[ADR，R]データを読み出すことが出来ます。
アドレスADRが自身のアドレスと一致しなかった場合には、割り込みは発生しません。
アドレスバイトがリードサイクル[ADR，R]で、送信可能フラグSTAF＝1の場合、[ADR，R]に対するアクノリッジ(A)送信を保留してクロックストレッチしています。

従って、割り込み<SRAR2>において、適切な送信データをstwsdatsレジスタに書き込まないと、I2Cバスがデッドロックしてしまいます。

マスタからの送信要求データ数が不明な場合、STAF＝1となるたびに次々と送信データを書き込むしかありません。

この場合、最後に書き込んだデータはマスタに受信してもらえず、行き場をなくしてしまいます。
対策として、マスタからノットアクノリッジ(N)応答を受信したタイミングで、自動的にSTAF＝1にセットして、過剰な書き込みデータをクリアしています(ハードウェア処理)。

STOPコンディションを検出した時点で<SRAR3>割り込みがかかります。

受信データレジスタstwsdatrからの読み出しデータ中の0x0100(＝stws_sstp)ビットがセットされます。この時の下位8ビットデータは無効です。
これも、STOPコンディションを検出した時点で、それまでの送受信サイクルに関する処理をまとめて実行するのに有効な割り込みです。

スレーブがマスタにデータを送信するケース[[RCV1]]，[[RCV2]]では、割り込みは発生しません。
スレーブドライバ(mcvm_wire_isr)では、以下のイベントに対応します。

<SRAR1>：　mcvm_wire_onstar
<SRAR2>：　mcvm_wire_onadrb
<SRAR3>：　mcvm_wire_onstop

S<SRAR1>　[ADR，W]<SRAR2>　[CMD]<SRAR3>　[DAT]<SRAR4>　P<SRAR5>

<SRAR1>，<SRAR2>，<SRAR5>に関しては、上の例で解説した通りです。
その他通常のデータを受信した場合、<SRAR3>，<SRAR4>が発生します。

受信データレジスタstwsdatrからの読み出しデータ中、下位8ビットに受信したデータがセットされています。
アドレスADRが自身のアドレスと一致しなかった場合には、<SRAR2>～<SRAR4>割り込みは発生しません。
アドレスの一致／不一致にかかわらず、<SRAR1>，<SRAR5>割り込みは発生します。

スレーブドライバ(mcvm_wire_isr)では、以下のイベントに対応します。

<SRAR1>：　mcvm_wire_onstar
<SRAR2>：　mcvm_wire_onadrb
<SRAR3>：　mcvm_wire_onrecv
<SRAR4>：　mcvm_wire_onrecv
<SRAR5>：　mcvm_wire_onstop

　いよいよ、スレーブドライバ(mcvm_lib_wire_s.incl)を使って、アプリケーションを作って見ます。

I2Cシリアルメモリ(256バイトRAM)

　アプリケーションは、I2Cシリアルメモリ(256バイトRAM)です。昔、Pi ZeroWとArduino UNOを使って、I2C通信を試した時のプログラムをMoscoviumアセンブラに移植します(↓)。

　　「#8-1　Pi ZeroWのI2C通信」

　移植するのは、当時UNOで動作させたプログラム(test_smbus.ino)の方です。Pi ZeroWで使ったプログラム(test_smbus.cc)の方はそのまま使います。

　Pi ZeroW側のtest_smbus.ccが実行するI2Cバスアクセスは、SMBusのバイトリード／ライトです。これを受けて動作する、旧UNO側のtest_smbus.inoはI2Cスレーブとしてアクセスに応えます。test_smbus.inoはSMBusバイトリード／ライト以外のアクセスは発行されないことを前提としています。

　　SMBusバイトライト：　S　[ADR，W]　[CMD]　[DAT]　P
　　SMBusバイトリード：　S　[ADR，W]　[CMD]　R　[ADR，R]　[[RCV]](N)　P

　test_smbus.inoの動作をMoscoviumのスレーブドライバ(mcvm_lib_wire_s.incl)を使って記述します。4つのイベントにおいて、以下の様に動作させると、SMBusバイトリード／ライトに従ってアクセスが可能となります。

mcvm_wire_onstar：　　// STARTコンディションを検出

// nothing to do
rtn
今回のアプリケーションでは、特に処理すべきことはありませんので、そのまま戻ります。

mcvm_wire_onadrb：　　// アドレスバイトを受信

// read or write?
andi　r0,stws_adrr
beq　mwona_write

// read access
ldwi　r7,i2c_cmd
ldw　r1,[r7]
ldwi　r7,i2c_reg
add　r7,r1
ldb　r0,[r7]
// slave send
ldwi　r7,stwsdats
stw　[r7],r0
bra　mwona_return

// write access
mwona_write:
// clear command
ldwi　r0,-1
ldwi　r7,i2c_cmd
stw　[r7],r0
bra　mwona_return

mwona_return:
rtn
イベントに飛んでくると、受信したデータ(アドレスバイト)が汎用レジスタr0に格納されています。

r0＝stwsdatrです。
下位8ビットが受信したデータで、上位8ビット側にその他フラグ値が格納されています。
STWSERユニットのI/Oレジスタを隠蔽したかったのですが、ここは避けようがないので、受信データとフラグの意味についてはこちらをご参照ください。

アドレスバイトの最下位ビットでリード／ライトアクセスを切り分けます。
リードアクセスなら、予め受信していたCMDバイト(コード中ではi2c_cmd)を256バイトRAM(コード中ではi2c_reg[0～255])へのアドレスと見て、データをマスタへ送信します。

この時、STWSERユニットのスレーブ送信データレジスタstwsdatsへのアクセスが必要です。
STWSERユニットのI/Oレジスタを隠蔽したかったのですが、この程度の事をサブルーチンに起こすまでも無いので、ここも目を瞑ってくださいｍ（１＿＿）ｍ。

ライトアクセスなら、コマンドコードi2c_cmdを－1で初期化して戻ります。

mcvm_wire_onrecv：　　// データを受信

// check command byte
ldwi　r7,i2c_cmd
ldw　r1,[r7]
mov　r1,r1
bpl　mwonw_normal

// command byte
andi　r0,0xff
stw　[r7],r0
bra　mwonr_return

// SMBus byte write
mwonw_normal:
ldwi　r7,i2c_reg
add　r7,r1
stb　[r7],r0
bra　mwonr_return

mwonr_return:
rtn
データを受信した場合の処理です。SMBusバイトリード／ライトにおいて、データを受信するのは[CMD]または[DAT]だけです。
コマンドコードi2c_cmdの値を確認して、受信したデータの意味を解釈します。
i2c_cmd＜0だった場合：

mcvm_wire_onadrbイベントのアドレスバイト[ADR，W]受信時にi2c_cmd＝－1に初期化しているので、アドレスバイト受信後、初めてのデータ受信だったと解ります。
つまり、[CMD]バイトです。受信したデータをi2c_cmdへセットして戻ります。

i2c_cmd≧0だった場合：

既に[CMD]バイトを受信済みだったことになるので、今回受信したのは書き込みデータ[DAT]です。
256バイトRAM(i2c_reg[ ])のアドレスCMDへデータDATを書き込んで戻ります。

i2c_reg[CMD]＝DAT

mcvm_wire_onstop：　　// STOPコンディションを検出

// nothing to do
rtn
今回のアプリケーションでは、特に処理すべきことはありませんので、そのまま戻ります。

　完成したプログラムを以下にリンクしておきます。

　　完成版プログラム：test_smbus.asm

※必要なインクルードファイルなどはこちらからダウンロードできます。

　アセンブルしてFPGAボードに書き込むと、シリアルモニタから以下のコマンドを受け付けるようになっています。

Pi ZeroWが読み出した時に可読なテキストデータを256バイトRAMの先頭に書き込みます。
リセット解除後も、同じテキストデータを書き込んであります。

seta

256バイトRAMを0xffで埋めます。

clra

256バイトRAMを0x00でクリアします。

dump

現在の256バイトRAMデータをダンプします。

who
help

　ただし、上のコマンドはデバッグ用で、基本的には使いませんので、FTDIは接続しなくて良いです。次節にてPi ZeroWからI2Cシリアルメモリ(256バイトRAM)としてアクセスするテストを実行します。

実験だよ

　FPGAボード(Sipeed Lichee Tang Primer)とPi ZeroWを以下表の様に接続します。

FPGAボード	接続	Pi ZeroW
GND	⇔	GND(phys#9等)
P2(stws_scl)	⇔	SCL(phys#5)
R2(stws_sda)	⇔	SDA(phys#3)

※FPGAボードの入力プルアップ抵抗が有効なので、外付けにプルアップ抵抗は必要ありません。

　実験中の様子を以下に示します。

　　実験サンプル：【】内はPi ZeroW shellウインドウでのコマンド入力
　　【g++ -lwiringPi test_smbus.cc -o test_smbus】
　　　　……　コンパイル。

　　【test_smbus -c】　……　現在の/boot/config.txt設定値を表示
　　dtparam=i2c_arm=on
　　dtparam=i2c_baudrate=400000
　　　　……　I2C 400kHzの設定でテストしました。

　　【gpio i2cdetect】　……　I2Cに接続されたスレーブアドレスをスキャン
　　　　0　1　2　3　4　5　6　7　8　9　a　b　c　d　e　f
　　00:　　　　　-- -- -- -- -- 08 -- -- -- -- -- -- --
　　10: -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- --
　　20: -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- --
　　30: -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- --
　　40: -- -- -- -- -- -- -- -- 48 -- -- -- -- -- -- --
　　50: -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- --
　　60: -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- -- --
　　70: -- -- -- -- -- -- -- --
　　　　……　Moscoviumのスレーブアドレスは0x08です(＝i2c_slv_adr定数)。

※FPGAボード上のタッチスクリーンコントローラNS2009(スレーブアドレス＝0x48)も、Pi ZeroWから見えています。

　　【test_smbus】　……　Moscoviumの256バイトRAMをダンプ
　　addr: +0 +1 +2 +3 +4 +5 +6 +7 +8 +9 +a +b +c +d +e +f : 0123456789abcdef
　　0000: 68 65 6c 6c 6f 2c 20 72 61 73 70 62 69 61 6e 00 : hello, raspbian
　　0010: 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 :
　　0020: 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 :
　　0030: 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 :
　　0040: 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 :
　　0050: 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 :
　　0060: 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 :
　　0070: 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 :
　　0080: 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 :
　　0090: 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 :
　　00a0: 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 :
　　00b0: 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 :
　　00c0: 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 :
　　00d0: 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 :
　　00e0: 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 :
　　00f0: 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 00 :
　　DEBUG: access time=49742[us]/256[byte] freq=41.172[kHz]

　Moscovium側のプログラム(test_smbus.asm)でリセット解除後に自動的に書き込んだメッセージを、アドレス0x00～0x0fから読み出すことが出来ています。
　最後の行は、256バイトの読み込みに要した時間と、実効通信速度freqを表示しています。実効通信速度freq＝転送したデータ(DAT)ビット数/転送に要した時間と、定義しました。

　　【test_smbus -m】　……　マーチングテストを実行
　　Start marching test, wait a moment...
　　OK: marching test passed (266433[us])

　マーチングテストも、パスしました。正しく通信して、256バイトRAMにアクセスできています。

　UNO＋test_smbus.inoでは、400kHzのSMBusアクセスは出来ず、75kHzまで周波数を落とすと、アクセスできました。この時のマーチングテストが約850msでした。400kHzのアクセスが失敗する原因については、「#8-1　Pi ZeroWのI2C通信」を参照してください。

※UNOに於いて、SMBusプロトコルを使わず、ライト／リードアクセスをSTOPコンディションで分離して400kHzでテストした時は、マーチングテストが約360msでした。

　Moscovium＋test_smbus.asmでは、何ら問題なく400kHzのSMBusアクセスが可能で、マーチングテストは約266msとなりました。まずまず、ではありませんか？
　MoscoviumのSMBus over I2C通信が400kHzで破綻しないのは、CPUの処理速度云々ではなくて、STWSERスレーブユニットがリードサイクルのアドレスバイト[ADR，R]を受信した時、送信データが準備できる(STAF＝0となる)まで、アクノリッジサイクル(A)をストレッチしてマスタを待たせているからです(ハードウェアの処理)。

　スレーブ通信も実機動作を確認できて、ようやく一息付けました（１＾＾）ｖ。I2Cは中々便利な通信方式なので、色々な活用が期待できます。さて、何に使おうか？